史上最強打線を科学する
前年のア・リーグMVPアレックス・ロドリゲスの加入により、人気、実力ともに空前といわれる打線を組むことになったニューヨーク・ヤンキース。
ロフトン、シェフィールドという「大物」の移籍が話題にならないほど、「悪の帝国」は、今シーズンもさらに進化をした。
その一方、今は病の床にある長嶋茂雄氏が、財界のジャイアンツ後援会「燦々会」での挨拶で、「これぞ史上最強打線ではないか」と発言した。
この言葉は瞬く間にマスコミを駆けめぐり、今年のジャイアンツ打線のニックネームとして、すっかり定着している感もある。
昨シーズン、松井秀喜が抜けた補強に、ヤクルトからペタジーニを獲得したに終わらず、今季は、ダイエーから小久保、近鉄からローズという、パ・リーグを代表するホームランバッターまで獲得した。
清原、江藤、そして生え抜きの高橋由と、球界を代表する「4番」が6人も顔を揃えたことになるのである。
相手投手としては、恐ろしい打線ではあるのだが、拙著(「図解 自分のポジショニングのみつけ方」講談社刊)で、ポジショニングマップというマーケティングで使われる手法を用いて分析してみると、ここ数年、ジャイアンツが押し進めてきた「4番打者コレクション」は、実は攻撃のバランスを、著しく欠いたものであった。
では、今季ともにパワーアップしたジャイアンツ打線とヤンキース打線、はたしてどちらが「史上最強」の称号にふさわしいのか、ポジショニングマップを用いて分析してみたい。
---
それぞれの選手は、それぞれの開幕シリーズ、ジャイアンツはタイガース戦、ヤンキースはデビルレイズ戦に出場したメンバーから選んでいる。
ジャイアンツについては、問題の清原、ペタジーニの起用問題があるが、ここでは開幕数試合で出場機会の多いペタジーニを優先した。
また、分析するデータは、03年のシーズン成績で、ジャイアンツは、セ・リーグ打撃30傑の選手の平均値を基準とし、各選手のデータを偏差値化した。
項目は、打率、得点圏打率、単打率、二塁打率、本塁打率、四球率、犠打率、そして盗塁率の8項目である。
単打率から犠打率までの項目は、1人の選手が、1打席あたり、どのくらいの確率でその結果になるという割合になる。
盗塁率は、1出塁あたり、盗塁に成功する割合となる。
これらのデータを、リーグ平均を基準とした偏差値としてみることで、ある選手が、「その選手がどのような打撃結果に終わるイメージが強いか」が分かる。
つまり本塁打率の高い選手は、「本塁打をよく打つイメージ」となるという意味である。
パ・リーグから移籍の小久保・ローズは、パ・リーグでの成績(ローズは03年、昨年負傷欠場の小久保は02年)を、セ・リーグの基準にそのままあてはめてみた。
本来であれば、昨年(一昨年)のパ・リーグでの成績から偏差値化されたものを用いるべきかもしれない。
ただ、例えば、ローズには、近鉄バッファローズ時代のように、本塁打を55本打つことを期待されているはずである。
リーグに関係なく、移籍で期待されるのは、前年の成績に基づいたもののはずである。
そのため、便宜上からも、直近の成績をそのまま用いることにした。
以上に基づいて、作成した成績データの元表は、下記のとおりである。

ヤンキースも、今季、A・ロッドだけでなく、ロフトン、シェフィールドが、指名打者制のないナ・リーグから移籍しているのだが、こちらもそのまま前年のデータを、ア・リーグの基準値にあてはめ、偏差値を算出することとした。
ヤンキース打線の元表は、以下のようになる。

---
まず、ヤンキースのマップから見てみよう(図1)。

選手と項目が近く、さらに、ジアンビ、ロドリゲス、ポサダを中心とした「ホームラングループ」と、松井、ジーター、シェフィールドの「得点圏打率グループ」、そしてロフトン、ウィルソンの「小技グループ」と、3つに大きく分かれていることに気付く。
これは、ヤンキース打線が、マスコミが騒ぐほど「大物打ちばかりいる打線ではない」ことを示している。
日本では、球史に残るホームランバッターだった松井が、クリーンアップをはずれることが多いためか、「ヤンキースの選手は皆松井以上のホームランバッターばかりなのでは」と、勝手に想像しがちである。
しかし、実際の打撃成績に基づいたイメージは、そうではない。
それぞれの選手のイメージは、大技担当から小技担当まで、かなり明確に分かれているのである。
一方のジャイアンツ打線のイメージは(図2)、ヤンキースほど明確ではない。

項目の位置関係は、ヤンキースと似ている部分もあるのだが、項目の合間に、選手名がプロットされている。
これは、1人の選手が、いくつかのイメージを兼ねていることを示している。
例えば、高橋由伸であれば、得点圏打率を中心としながら、(高い)打率と、二塁打をよく打つイメージということになる。
今季のジャイアンツ打線の特徴は、小久保と阿部が、寄り添うようにプロットされていることを除けば、ヤンキースよりも、選手同士の位置が遠くなっていることといえる。
これは、イメージがかぶる選手が、実は少ないことを示している。
ペタジーニ、ローズ、小久保という3人のホームランバッターでも、打撃成績に基づいて相対的なイメージを分析してみると、実はそれぞれ異なるのである。
---
ジャイアンツ打線で問題なのは、マップ上で、選手と項目が、横に広がっていることである。
ヤンキース打線は、原点0を中心に、三角形のようにプロットされているのと比べると、その違いは明確であろう。
これは、ジャイアンツ打線のカラーが、「大物打ちか、そうでないか」の1つの軸でしか説明できないことを示す。
マップから判断すれば、イメージがかぶる選手は、小久保と阿部だけである。
しかし、仮に「今季のジャイアンツ打線全体のイメージは?」と問われるならば、「ホームランを打つか打たないか」としかイメージできないのである。
ところがヤンキース打線は、マップの横軸右側は、「大物打ちのイメージ」、左側は「小技系」、縦軸上側は、「高打率で確実に得点に結びつけるイメージ」で、下側は、「やや安定性に欠けるイメージ」となる。
2つの軸によって打線が説明できるということは、それだけ豊富なイメージで、相手チームを威圧することができるといえる。
極論をいえば、ジャイアンツ打線は、「ホームランにさえ注意していればOK」なのに対し、ヤンキース打線は、「ホームランにも注意しつつ、ヒットや、小技にも注意を要する」ということである。
---
いかがであろうか。同じ「最強打線」と言われても、実際の打撃成績を元にしたポジショニングマップを用いて比較すると、このように違うのである。
日本のファンも、マスコミのやや誇張しすぎた表現に踊ることなく、どこか冷めた感じがするのは、このようなジャイアンツ打線の「バランスの悪さ」を、どこか感じ取っているからなのではないだろうか。
そして、海の向こうのヤンキースも、実はバランスの良い打線でありながら、チームは低迷している。
4月19日現在、ジャイアンツはリーグ4位、ヤンキースはリーグ3位となっているのである。
この先、日米で、シーズンがどのように展開するのか、もちろん想像は難しいのだが、打線のバランスの良さを考慮すれば、ヤンキースはいずれ浮上し、ジャイアンツはシーズンを通して苦しみ続ける、そんな予想も成り立つだろう。
そして、「史上最強打線」の称号も、海の向こうのヤンキースに与えられるべきものと判断してよいはずである。
---
![]()