▼マーケット・ライフ・サイクルとポジショニングマップの関係

個別の商品ではなく、マーケットそのもののサイクルを考える「マーケットライフサイクル」であるが、これに基づいて、自社商品が置かれているステージを把握し、いよいよポジショニングマップを作成するという時に、実践的な観点では、どのようなことに注意すればよいのだろうか。

まず、「開拓期」にポジショニングマップを作る時の注意点としては、そもそも新市場が開拓されたばかりであるため、市場にある商品のバリエーションが極端に少ないことがあげられる。そのため、新市場のマップを作成する意味はあまりない。ウォークマンが発売されて、まだ他社が参入していないとすれば、「ヘッドフォンステレオ市場」のマップは描こうにも描けないのである。
また、仮に何社かの商品があったとしても、市場にさほど浸透していない時期でもあるため、消費者が商品間のベネフィット(便益)の差異を十分に認識することができず、調査データを取ることが成立しない可能性もある。

ただ、「ヘッドフォンステレオ市場」のマップは無理でも、旧市場の「カセットレコーダー市場」のマップなら描くことはできる。例えば、ウォークマンならば、「コンパクトで持ち歩きやすい再生専用カセットレコーダー」として旧市場にポジションされることになる。しかし、このような「コンセプトが明確に異なる商品」が1つ入ると、マップは非常に偏ったものになりやすい。そのためマップを描く意味をよく検討してから、マップ化する必要がある。

「参入期」は、各社がさまざまな商品を投入してくるステージであり、市場が最も盛り上がる時期ともいえる。消費者側も、個性溢れる商品の中から、自分の気に入ったものを選択することができる。この時期にマップを描くと、ユーザーの好みによって、「○○派」「××派」などと、その志向によってタイプ分類をしやすい。
市場がまだ流動的であるため、商品開発の際に、他社とコンセプトが競合しないように、さらにその隙間を狙ってくるような商品を発売することも多いのだが、そのコンセプトが複雑すぎたり、地味すぎたりすると、時として失敗しやすい。このステージでは、消費者の購入態度はウォンツに偏っているため、感覚的な判断をくだしやすいのである。ユーザーがみて、「分かりにくい」とか、「つまらなそう」と思われてしまうものは、受け入れられにくいということだ。

本章の冒頭に例として掲げたサントリーの「熟茶」は、「無糖茶市場」のこのステージに参入していることになる。しかし、時はまさに「味わう緑茶市場」が盛り上がっている時期であり、プーアル茶を原料とした「熟茶」は、消費者には飲用する理由が極めて分かりにくい商品と映ったのではないだろうか。わずか1年にして、発売中止となったのは、投入する時期があまりにも悪すぎたというしかないだろう。

「淘汰期」も、商品バラエティがまだ豊富な時期であるから、マップを描くことはたやすい。ただ、参入期とは異なり、ユーザーの購入態度が段々と冷静な判断を下すようになることが最重要ポイントである。そのためマップを作り、一見市場があるように思えるからといって、華美なデザインや機能性の追求が過ぎると、消費者ニーズと乖離してしまい、受け入れられないことがある。贅肉をそぎ落とした無駄のない商品であることが、ユーザーから求められるステージなのである。

「安定期」は、市場を独占もしくは寡占している商品の牙城が、堅牢極まりないときである。淘汰期を経て、無駄の排除された筋肉質の商品となっており、この時期に参入することは容易ではない。それでもこの時期にマップを描くと、既存商品の持つイメージとは異なる商品であれば、ひょっとして成功するのではないかと考える。しかし、このようなケースも失敗することが多い。調査を行った結果、「ユーザーの購入意向率が高かかった」としても、売れないことがある。それはなぜだろうか。
この間違いにも、かなり陥りやすい。一見、既存商品の弱点をついているように見えるのだが、実は、その弱点は、本当の弱点ではないことがあるのである。つまり、既存商品がそのようなイメージや機能を持っていないことについて「不満を感じていない」のである。現行の既存商品に不満を抱いていないのであれば、どんなに素晴らしいコンセプトを持った商品でも、市場を改革することは簡単ではない。

この分かりやすい例が、「コーラ市場」だろう。ペプシがあれほどさまざまなマーケティングを行いながらも、なかなかコカ・コーラの牙城は崩せない。ペプシにしてこれなのであるから、ヴァージンやダイエーのPBコーラが市場を改革できなくても、何らおかしいことではない。コカ・コーラユーザーは、現行品に不満を抱いてはいないのだから、当然の結果であろう。また、それは過去にコカ・コーラがユーザーを無視して味を変更し、マニアの猛反対にあったことからも明らかなことである。
以上、ポジショニングマップの解釈を、マーケットライフサイクルに則って行うときの留意点を列挙した。それをまとめたのが、下図である。よろしければ参考にしていただきたい。


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