▼プロダクトライフサイクルの限界

ポジショニングマップは、その要素が持つ絶対的な数量を図上に表すことができないため、マーケットや組織の現状を、正確に反映しないことがある。そのため、解釈には注意を必要とする。ポジショニングマップは、そのマーケットや組織が、「今どのようなステージにあるのかを把握すること」が大前提となるのである。それを無視してマップを描いても、誤った解釈をしてしまい、ひいては市場ニーズを反映しない戦略をとってしまうことにもつながる。

ある商品が、今どのようなステージにあるかということを把握するものとして、「プロダクトライフサイクル」という理論がある。この分け方には、3段階から5段階までさまざまな説があるのだが、最も一般的に使われているのが、図に示した4段階説である。プロダクトライフサイクルによれば、製品の寿命は「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階に分かれ、それぞれのステージによって、企業が取る商品戦略や流通対策は変わるとされている。



ただ、この理論は、現実の製品ではサイクルのパターンが単一ではなく、また製品によってサイクルの長短も違うため、自社製品がどの段階にあるのか見極めにくいという問題が指摘されている。さらに、市場に投入される数多くの製品の中で、この図のようにサイクルを描くものは、実際にはほとんどなく、成長期にすら至らず、導入期の段階で販売中止となってしまうものが大半である。このようなプロダクトライフサイクルの理論的な問題点は、かねてより論じられてきたのだが、昨今の消費財の分野では、ますますこのサイクルに当てはめにくくなってきているのである。

その要因として考えられるのは、コンビニエンスストア(CVS)を中心としたPOSシステムの急速な発達である。流通業界では、POSから上がってくるデータを元に、一定期間売れない商品は「死に筋」として、随時「定番」からカットする。要するに、店に置いてもらえなくなるのである。セブン・イレブン1社だけでも、全国に1万店近くの店舗を有するのだから、そこに商品を置いてもらえないことに対するメーカーサイドの影響はあまりにも大きい。

それを回避するために、メーカー側も商品の市場投入時に、大量のテレビCMを流したり、大規模な販促キャンペーンを行い、棚を死守するのだが、1つの商品群が占有できる棚の長さは、ほぼ決まっている。安定した販売を期待できる商品が、すでにいくつかあるのであれば、そこに新商品が食い込める余地は非常に小さい。

POSによる商品管理が進んだ結果、シェア構造が微妙に変化してきた例として、「即席めん」と「チョコレート」の、1990年および2000年時点での市場シェアの変化をみてみたい。

「即席めん」は、90年には上位2社のシェア合計は49.2%だったが、00年には57.9%と高くなっている。特に、業界首位の日清食品は、10年間でシェアを7ポイント上昇させている。「チョコレート」では、90年には、ロッテをはじめとする4社が、シェア15%から22%の間にひしめいていたが、00年には明治製菓が26.0%と頭ひとつ抜け出した。2位のロッテ(20.2%)と、3位江崎グリコ(14.2%)の差が5ポイント以上あり、チョコレート市場は上位2社の寡占状態になったことが分かる。



即席めんもチョコレートも、メインターゲットである若年層が集まるCVSがあってこその商品である。ちなみに、セブン・イレブンの店舗数は、90年の4千店強から、00年は8千店強へとほぼ倍増している。これら商品のシェア構造の変化は、上位メーカーの企業努力の賜物であることはもちろんだが、そこにCVSのPOSの影響があったことも無視できないはずだ。

CVSを中心としたPOSによって、定番商品を抱える企業は、安定した売上を期待できるようになった。しかし、それを持たない企業にとっては、「いかに自社商品を取り扱ってもらうか」ということに頭を悩ます時代なのである。商品の寿命以前の問題が、多くの企業にとって喫緊の課題なのであるから、プロダクトライフサイクルの理論が形骸化したと考えるのも、致し方のないところであろう。
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