No.130

讃岐うどん東京進出 徹底研究
2002.10.7
by Y.Tomizawa

この写真を見て、何を思いますか?

「(平日の)営業時間が長くなりました」との知らせ。

このお店は、渋谷駅から公園通りを上っていった途中にある、「ドトールコーヒー系」の「エクセルシオールカフェ」。
http://www.doutor.co.jp/all/exc/dt/fr/L05033.html
(お店の地図:エクセルシオールのサイトより)

上記サイトの情報では、まだ営業時間が更新されていないので、前の(平日の)営業時間は、「23:00」だったことが分かる。
それが、なぜか「23:20」まで、微妙に延長された。
「30分延長」でもなく、「24:00」までという「1時間延長」でもなく、微妙な「20分延長」。
なぜ?

あれこれ調べてみたけれど、残念ながら理由は分からなかった。
ただ、仮説は考えられる。

この店のさらに先、NHK寄りにある「スターバックス渋谷公園通り店」は、「22:30」までの営業。
最近の渋谷だったら、23時くらいは、人がたくさんいて当たり前だろうから、それをスタバに対抗して、ギリギリまで「拾うため」に、営業時間を延長した?
23時20分とは、店員が後片付けをして、終電に間に合う精一杯の時間ということか?

たかが一つの「営業時間延長のお知らせ」だけど、こういうところに、この辺の街の「動き」の一端が現れているのも事実である。
こういうところから、何かを感じ取っていくことが、マーケティング的な感性をとぎすます第一歩なのだと思う。




1.讃岐うどんの東京進出


今日の本題は、この「エクセルシオール」の先、NHK寄りに9月6日にオープンした「讃岐うどん」のお店、「はなまるうどん渋谷店」についてである。
(正式名称:まんまるはなまるうどん東京渋谷公園通り店)


かねてより密かなブームだった「讃岐うどん」。
関東では考えられない「セルフスタイル」、そして「超低価格」に魅了されている人は少なくないようである。
高松近辺には、いまだ100円を下回る金額で、1杯のうどんを出す店もあるというから、その奥深さが、ますます人を引きつけるのだろうか。

その香川県を地元とする「はなまるうどん」(株式会社はなまる)が、いよいよ東京に進出してきた。

「はなまるうどん」は、この1年半で、本場香川県内に5店舗出店した伸び盛りの企業。
同社のホームページによれば、高松以外では、岡山(2店舗)、倉敷、姫路、そして金沢に店舗がある。

そのコンセプトは、「安い・早い・うまいの従来のセルフうどん店に、きれい・うれしいを加えた新タイプのセルフうどん店」(同社HPより引用)とのこと。
本場讃岐のうどん店では、たしかに安くて早くてうまいようだが、その店は、「麺工場そのまま」を店舗にした店も多いようである。

だから、通い慣れた地元客は入りやすいが、「一見さん」にはちょっと敷居が高いと感じられるのだろう。
その問題点を、「カフェテリア形式」にして清潔な店内にしたところが、最大のポイントというところか。


こんな「はなまるうどん」が、東京は、しかも「渋谷」に進出してきた。
謳い文句も、

●100円〜という低価格で本場讃岐うどんの味が楽しめます。
●本場高松で主流のセルフ・スタイルで、お好きなものを気楽に楽しめます。
●女子高生に大人気!既存のうどん店のイメージを払拭する明るく清潔な店舗づくり。
●テンカス、ゴマ、しょうがに鰹節も取り放題。ということは・・・たぬきうどんが100円?!


とある(同社HP渋谷店紹介より引用)。

何よりも「100円」である。
「たぬきうどんが100円で食べられる」というのだから驚きであるが、実はこれ、メニューでいう「かけうどん」の「小」サイズが、100円なのである。
とはいえ、この「小」サイズが、全然バカにならない大きさで、女性であれば、「中」よりも、こちらの「小」で十分かも知れないというくらいの大きさ。
「中」だと、通常のどんぶりに、ほぼ満タンの麺とお出汁という感じである。

東京の立ち食いそばでは、「かけそば」でも、今では260円くらいするはず。
味は問題外の安っぽい立ち食いそばでも210円が限界か。
マクドナルドには負けるにしても、この価格は、東京人には驚異的な価格設定と思えることは間違いない。


私も、このコラムを書くために、2回食べてみたが、本当においしかった。
何よりも麺にコシがあるし、そしてお出汁が感激するほどおいしい。
つい全部飲み干したくなる味である。
しかし、この「はなまるうどん」、「味以外」については、かなりの問題がある。

こちらの写真を見ていただきたい。
先週関東を直撃した台風が過ぎ去った翌日(10月2日)、昼時の写真である。

ごらんの通りの長蛇の列。
開店して1ヶ月で、まだこの行列なのだから、その人気ぶりが窺い知れるというものだが、こちらの写真も見ていただこう。

行列の向こうの窓越しに店内が見えるが、窓側の席に、誰一人座っていない。
もう少し近寄って撮った写真がこれ。

いわゆる「テーブル席」も、丸々一つ分、空いてしまっている。
これは何も、この時だけの問題ではない。
ランチタイムに、時間をおいて、何回か見に行ってみたが、やっぱり店内に空席はかなりの数があった。
「空席率」は、だいたい30%から40%というところ。

行列ができるのは理解できるが、「空席」があるのは、大問題なのではないだろうか。
いくら、「行列好き」の人だって、店内がスカスカなのに行列させられるのは、あまりいい気分ではないだろう。
肝心要の「ランチタイム」に、どうしてこのようなことが起きるのだろうか。




2.店舗の構造の問題


この「空席」問題の一つには、何よりもまず、店の構造が悪いことがあげられる。

右の図は、私が描いた店内の見取り図である。

図左部分に入り口があって、まずお盆を取る。
次に、ドリンク類を取りたい人は、自分で冷蔵庫を開けて取る。
そして、注文口を経て、オプションとなる「天ぷら」などを取り、レジに向かう。
そして、席に着く、というのが「動線」である。

この「動線」が、最悪といえる。
食べ終わって、そのまま「出口」に進めるのならまだしも、「セルフ」であるがゆえに、「返却口」にまで、客は自ら「お盆」を持って行かなくてはならない。

その「返却口」は、レジのすぐ横。
ここは、これから食べる客が、席に着こうと歩いてくる場所である。
ここで必ず、人が停滞してしまう。
普通のマナー感覚を持った人間であれば、「これから食べる人」を優先させて、「返却する人」は少し待つであろう。
だから、図にある「コップ」などが置いてあるあたりに、人が滞留しやすい。

滞留しやすい場所がある上に、客は返却口から、また店内をずっと歩いて出て行かなくてはならない。
「出入り口」と「返却口」が遠いことも、店内に「無用の混雑」を引き起こす原因となっている。


ただこれは、普通のカフェテリアでは、全く問題ないはずである。
しかし、「うどん」というメニューは、通常のカフェテリアのメニューよりも、「喫食時間」は絶対に短い。
男性であれば、どんなにかかっても10分で食べきってしまうだろう。

普通のカフェテリアであれば、ランチタイムは「1回転」もすれば上出来だろうが、「早さ」も売り物にする「うどん店」であれば、最低でも「3回転」はして欲しいところ。
回転率をあげてこそのランチタイムに、客を滞留させてしまうような構造の店舗にせざるを得なかったことは、店舗選定の判断ミスと指摘されても、いたしかたあるまい。
(※回転率=入店客数÷座席数)

厨房の位置を変えるのは容易ではないから、ここは、図の右下の席をいくつかつぶしてでも、「ランチタイム専用出口」を設けるべきではないか。
それができなければ、コンセプトを変更してでも、「立ち食い」の場所を設けるなりすべきだろう。
でないと、「混雑している割に、売上はこれだけか」ということにもなりかねない。




3.メニューの問題


空席が生じるのは、メニューにも問題があるためである。
「はなまるうどん」のメニューは、以下の通り。
http://www.hanamaruudon.com/menu/menu.htm

これらメニューの写真が、店内に、新聞紙大のサイズで大きく飾られており、たいへん食欲をそそられる。
そして、いくつかのメニューには「おススメ」の印がある。
その一つが、「かま玉」。
関東人が、「いかにも讃岐うどん」と感じる、素うどんに「しょうゆ」をかけて食べるタイプである。
しかし、これが大問題なのである。

実は、この「かま玉」を注文すると、「3分ほどお待ちください」となる。
釜上げであるため、通常のゆで方と異なるのだろう。
私も、これを食べてみたが、午前11時頃でさえも、やはり3分ほど待たされた。
これが12時過ぎであったら…。
いわずもがなだろう。

私が食べた時は、注文時に「札」を渡され、うどんがまだできあがらないうちに、レジが終わってしまい、席で待つことしばし。
そして、呼ばれて、再び注文口まで行き、受け取って、また席に着くとなる。
先ほどの、店内の「無用の混雑」を、この「おススメ」メニューが助長しているのである。

「おススメ」を謳っている以上、客がそれに集中するのは当たり前。
店としても、よりおいしいものを、お客様に食べていただきたいという気持ちも分かる。
しかし、「作り方」が通常と異なるということは、工場でいえば、違う生産ラインを同時に稼働させているようなものである。
経営効率としては、かなり悪い。

この解決方法は、実は簡単である。
客が並んでいるうちに、「注文を受ければいい」だけである。

この店では、注文は、「注文口」でしか受け付けないシステムとなっている。
長い間並ばされているというのに、注文も受けず、「おススメ」を頼めば、さらに待たされる。
これで行列客は、怒らないのだろうか。

人の流れを読んで、先頭から何番目の人まで、注文を受ければよいのかくらい、少し考えれば分かるはず。
時間がかかるメニューを注文する人だけ、把握しておくのでもいいだろうし、並んでいるすべての人のメニューを聞いておいて、注文票を渡しておくのでもいいだろう。

このくらいのことをしておかないと、自分たちが自信を持って薦めているメニューが、実はお客様の不満を醸成してしまうというパラドクスに陥りかねない。




4.人の問題


最後は、「従業員」の問題である。
先ほどの「店の構造」にしても、「メニュー」にしても、実は「従業員」が動けば、少しは解決することである。
しかし、彼らはそれをやっていない。

例えば、「返却口」には必ず店員がいるが、少し手が空いていれば、食べ終わったお客様のところに、少し歩み寄って、お盆を受け取るくらいできるはず。
彼らは、それすらしていない。
こんなこと、あえて言うほどのことでもなく、どこの店でもやっていることだ。
「立ち食いそば」だろうと、「セルフコーヒーショップ」だろうと。

ヘタに「セルフ」を標榜してしまったためなのだろうか。
「うどんの本場讃岐では、これでやっていますから」と考えたのか。
それとも、やはり店の構造が悪いから、中途半端に店員が動き回ると、お客様の邪魔になると考えているのだろうか。

事前にメニューを受けることも、1ヶ月ずっとこの混雑が続いているのだろうから、そのくらい誰かが提案してもいいはずだ。
開店当初ならまだしも、すでに1ヶ月経とうとしているのである。
お客様に気持ちよくなってもらうということに対して、店員の意識がまだまだ低いのだろう。
店員がうまく動くことによって、お客様を、うまく循環させる潤滑油になるということが分かっていないのである。


この店の立地は、「渋谷」の中では、いい場所とはいえない。
渋谷駅を背にして、NHKや渋谷公会堂、国立代々木体育館があるため、何かイベントがあった時の集客は、かなりのものがあるはず。
しかし、普段の「公園通り」のこの辺は、かなり閑散としている。

だから仮に、もっと駅の近くに、同様の店が開店したら、この店は「お役ご免」となってしまうだろう(競合店だろうと、また自店だろうと)。
そんな立地で、客をここまで引っ張り続けるには、単に「おいしい」だけではないサービスがなくてはならない。
自らが掲げている「安い」「早い」「うまい」「きれい」、そして「うれしい」という店舗コンセプトを実現するためには、相当な従業員教育が必要だ。

今はまだ、「ブーム」のようなものであるから、集客も問題ないだろうが、いずれブームは去る。
そのときに、どのようなサービスを提供できるのか。
「うどんの激戦区」では勝ち組になったのだろうが、「外食チェーンの激戦区」でも勝ち組になれるのか、非常に興味深いところである。